再び受付を済ませてから黒瀬さんの病室の前まで行き、スライド式のドアを開けて中に入ろうとして…直前になって留め、そして咄嗟に隠れた。
私と羽水社長のほかに先約がいた事に気がつく。
──芝波社長だ。
病室には眠っている黒瀬さんと羽水社長と芝波社長。実質二人きりのようなものだ。
このまま気をきかせて帰ってしまおうかとも思ったが、羽水社長のスマホを預かったままでいるからそうもいかない。
どうしようかと迷いちらっと病室の中の様子を伺う。
そして、息を呑んだ。
芝波社長は時々、多分黒瀬さんの事を想って、誰もが声をかけるのを躊躇うような、見ているこっちが泣きたくなるような切ない表情を見せる。
…羽水社長も、それと同じような表情で芝波社長の事を見ていた。

