「あー、黒瀬さんに気づかれちゃったみたい。
君の秘書って顔だけじゃなくて頭も良いんだ」


手足を縛られ、口をガムテープで塞がれて。
芝波桜は、自分の目の前でそう言って笑う人物を信じられない目で見ていた。

何か言葉を発したくても口を塞がれているせいで声が出せない。


「何か言いたそうだね。どうぞ?」


そう言って口に貼り付けられていたガムテープを思いきり剥がされる。
声を出す事を許された口からは、自分でも驚くほど情けない声が漏れた。





「……倉掛君、どうして倉掛君が、こんな事…」




部屋から私を無理矢理連れ出し、手足を乱暴に縛り、今私の目の前で不敵な笑みを浮かべているのは、倉掛君以外の何者でも無かった。

自分でもまだ自分の状況が上手く理解出来ない。
悪い夢を見ているのかとさえ思う。


今日、倉掛君が相談があると私のマンションまで訪ねてきたのは、今日が家をでてわずか30分後の事だった。

インターフォンを見て、話を聞いて欲しいとか弱く泣きながら一人で立っている倉掛君を見て驚いた。