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「12時には、羽水社長と早瀬さんが来てくれるそうだ」

「でも…」

桜が申し訳なさそうな顔をして目を泳がせた。
そんな桜の髪をクシャッと軽く掴み、そのまま頭を撫でる。

「いいから、俺の為だと思ってきいてくれ。
俺がお前を一人にしておきたくないんだ」

「…わかった」

桜が少しだけ剥れたようにそう返事をした。

俺が桜の事に関しては過保護だと言うことは自覚してる。

それを桜が不本意に思っている事も。

…でもごめん、桜に何かあったらと思うと俺が堪らないんだ。きっと自分を許せない。

こんな状況になって、改めて桜が俺の中でどんなに大きな存在なのかという事を突きつけられる。

愛だとか恋だとか、そんな言葉じゃ足りないくらい、ただ桜の事が大切なんだ。


誰より何より失いたくない。


「京…?」


そう桜に名前を呼ばれ、固い表情で桜の顔を見つめていた事に気がついてハッとした。


「あぁ…いや、なんでもない。それじゃあな」


そう言って、俺はひどく後ろ髪を引かれるような思いで桜の部屋を後にした。