「倉掛さんもドラマデビューか。でも少し早いんじゃないか」
「え?違うよ、倉掛君じゃなくて梨架ちゃんだよ。西条梨架」
ほらやっぱり聞いてなかったじゃないかと剝れた時だった。
──勢いよく社長室の扉が開いた。
びっくりして二人で振り返る。
息を切らしながら社長室に飛び込んで来たのは…
噂をすればというものか、倉掛君だった。
そして倉掛君は普通の状態ではない。
苦しそうに息を切らしていて、服は上下とも乱暴にはだけでいる。それに、頬や腕には小さな切り傷のようなものがいくつか。そして、首には痛々しい赤い指のあとがくっきりとついている。
ただならない姿に驚いて目を剥いた。
「く、倉掛君、どうしたの…!?」
二人で急いで倉掛君のもとに駆け寄る。
京は自分の着ていたジャケットをすぐに倉掛君に着せた。
「黒瀬さん、ありがとうございます」
「いえ…とりあえず座ってください」
京がそう言って、側にあった椅子を倉掛君の側に引き寄せた。倉掛君が、涙ぐんだ目のままありがとうございますと言って椅子に腰掛ける。
その呼吸はまだ荒く、過呼吸の手前のように感じられた。背中をさするけれど呼吸が整わない。
「京、どうしよう」
「…とりあえず砂川さんを呼んでくる。確か今日は事務所に居るはずだ」
両親と身寄りのない倉掛君にとって、砂川さんはまるで新しいお父さんのような存在だと前に倉掛君が話していたと聞いた事がある。