「…はぁ」


桜への電話を終え、黒瀬京はため息をついた。
一週間何もなければ桜を外に出すといったのはつい数秒前の事だ。

本当は、昨日の不審な郵送物の送り主を特定してひっ捕まえるまで桜を家から出したくない。桜が危険な目に遭う可能性を考えたら、たとえどんな小さなリスクも犯したくはない。

出来れば桜を家の中に閉じ込めて、そして俺もずっと桜のそばについていたい。

こんなにも頭が支配されるのは、
秘書として。幼なじみとして。

──…それだけでなく、俺が桜にずっとそれ以上の感情を抱いているからだと自覚せざるを得ない。




『黒瀬さん、芝波社長に面会されたいと倉掛宗次郎様がおいでになっております』

そんな内線の内容に少しだけ驚いた。


(倉掛宗次郎って言ったか?)


「社長は、今日は一日中出社する予定はないと伝えて謝っておいてくれ」

『そうお伝えしたのですが、それだったら代わりに黒瀬さんにお渡ししたいものがあるそうで、社長室にお通ししてよろしいですか?』


"お渡ししたいもの"と聞いて確信する。今日は元々砂川さんが倉掛宗次郎と千葉隼人のユニットのデビュー曲音源を桜に持って事務所にやって来る予定だったのだが、それを歌う本人が代わりに持ってきたのだろう。