メアリがユリウスの背中越しにランベルトを見ると、オースティンがランベルトの行く手を制するように立った。

「ランベルト大侯爵、陛下の御前です」

 従者は膝をつくが、ランベルトは「うるさい黙れ!」と一喝すると、メアリを睨んだ。

「娘を投獄するとはなにごとだ! もしや罠にはめたのではあるまいな⁉」

「そんなことは、決してありません」

 メアリがきっぱりと返すと、イアンが目つきを鋭くする。

「ランベルト大侯爵、罠にはめたのは貴公の娘の方です。陛下のお茶に毒を混入したのですから」

「そのような愚策を娘が使うものか!」

「ですが、実際に使ったのです。だからヴェロニカ様は捕らえられている」

「話にならんっ! 今すぐに娘を釈放しろ!」

 激しい怒りは収まることなく燃え滾り、ヒステリックに抗議するランベルト。

「ランベルト様、どうか落ち着いてください」

 メアリがどうにか宥めようと声をかけるが、火に油を注ぐだけ。

「落ち着いてなどいられるものか! ああ、やはりあの者の言った通り、お前は魔女だ!」

 ついにメアリに対して明らかな暴言を吐き始めたことで、謁見の間の空気が最大限に張りつめた。

 ユリウスの瞳が静かな怒りの炎を揺らす。
 イアンもまた、涼やかな目元を細めて、ランベルトを厳しく諫めようと口を開いたのだが、それよりも前にメアリが動いた。

「あの者とは、誰のことですか?」