メアリはもらった薬をテーブルに置くと、肘をついて顔を両手で覆い隠す。

(ヴェロニカ様が、私に毒を……)

 いや、まだヴェロニカが仕込んだとは決まっていない。
 知らなかったというのが本当であれば、殺意はなかったのだ。
 だが、毒ではなくとも意思を持って何かを仕込んでいたのは、ヴェロニカの口振りからして間違いないだろう。

 好かれているとは思っていなかったものの、今日のお茶会をきっかけに今後の関係を良いものにできるかもしないと期待していただけに、落胆は大きい。

(ショックだけど、俯いている場合じゃない)

 ヴェロニカが毒だと知らずに使っていた場合、手違いか、あるいは騙されていた可能性がある。

 毒といえば、メアリの脳裏に過るのはあの夜、メアリを月夜見の巫女と呼んだ青年。
 可能性はゼロではないだろうが、命を狙うのであれば、なぜあの時、もっと確実な手段で襲わなかったのか。

 ともかく今は、ヴェロニカが隠すことなく話してくれるのを待つのみ。

(いえ、できることは他にもある)

 メアリは髪を高い位置でひとつに結ぶと、部屋の隅に立てかけられているソードラックから父の剣を抜いた。

 もしもまた、あの青年によって何者かに襲われた時に、騎士たちの足手まといにならないよう、少しでも共に戦えるように精進しなければ。

 メアリは控えの間への扉を開け、歩哨に立つ近衛騎士らに訓練の相手を頼むと、広い部屋の中でひたすらに剣を振るったのだった。