(もし、ユリウスが毒に気付かなければ、私は今頃死んでいたのかもしれない)

 恐怖にぶるりと身を震わせ、自らの身体を抱き締める。
 ユリウスには、毒の話を聞いてすぐに礼を告げたが、言葉だけでは足りないくらいだ。
 本来なら謁見の間にて褒美を尋ねるか、あるいはこちらで決めて与えるものだろうが、ユリウスが常に護衛についてくれている今、個人的に聞いておくのもいいかもしれない。

 毒の件が落ち着いたら、褒美についてイアンに相談しようと考えたその時、扉が叩かれた。
 許可のあと、転がり込むように入室したのは半べそをかいたジョシュアだ。
 その後ろには、過保護な友人に呆れた眼差しを送るイアンもいる。

「メアリィィィィ! 毒入りのお茶は唇に触れなかったかい⁉ どこか痛いとか苦しいとか、ふらつきや倦怠感は⁉」

 ジョシュアはメアリの額や頬に触れ、顔色や瞳の異常を慌てふためき確かめる。

「あのっ、先生、ユリウスのおかげで私はなんともないですから落ち着いて!」

「落ち着いてなどいられないよ! あのあばずれ女め。メアリの優しい気持ちを踏みにじるとは、どうしてくれようか。一日中笑いが止まらない毒キノコを食べさせて苦しめるのはどうだいメアリ⁉」

「呼吸も体力も奪われる苦しいコース! 先生の気持ちはとても嬉しいけど、今はとにかく落ち着いて!」

「そうだ、落ち着け。騒がしい」

 イアンが小さく吐いた溜め息にジョシュアの眉がピクリと反応を示す。
 しかし、何か言われるより先にイアンが口を開いた。

「陛下、使われていた毒の種類が判明しました」

「なんの毒ですか?」

「旧ディザルト公国の西に咲くティリノという植物の花と根から取れる毒で、熱でゆっくりと溶ける特徴を持つものです」