時間差で溶ける毒があるのだとユリウスから聞いたのは、離宮から自室へと戻る最中だ。

 ユリウスがまだアクアルーナに潜入する前の話。
 城に怪しい商人が出入りしていた時期があり、モデストがまた何かを企んでいるのではと予想したユリウスは、後をつけて声をかけたことがあったらしい。
 脅しに近い尋ね方になってしまったが、商人は隠さずに話した。
 モデストに頼まれて、様々な毒とそれに対応した解毒剤を用意しているのだと。
 その日取引したのは非常に入手困難とされる特殊な毒で、食べ物や飲み物に含ませるタイプだが、すぐには溶けないという特徴があるものだった。

 今回の毒は、最初の毒見では反応が出なかったが、再度行った検査で発覚した。
 確かに酷似しており、ユリウスが知っている毒である可能性は高そうだった。

 毒殺未遂により、俄かに騒がしくなった城内。
 イアンへの報告に向かうユリウスから部屋にいるように言われたメアリは、自室のソファーに腰掛けた。