「離宮へお招きいただきましたが、元々お誘いしたのは私です。ぜひ、お茶は私に注がせてくださいな」

 お茶会は本来、主催者側がもてなすのがしきたりだ。
 身分の高い王女や女王であっても、主催者が心を込めてティーポットからお茶を注ぐ。
 今回は、メアリの都合で離宮での開催を願ったが、先に茶会に招いたのはヴェロニカ。
 故に、メアリは特に渋ることはせず、「ありがとうございます」と任せることにした。

 湯の入った銀のティーポットは、メアリの侍女が用意したものだ。
 ユリウスは、ヴェロニカの手元を注意深く伺う。

 現在、離宮には近衛騎士団第三部隊の者たちがそれぞれの配置についている。
 建物の入り口にはふたり。
 エントランスにもふたり。
 サロンの入り口にもふたり配置されており、庭や裏手も巡回中だ。
 この状況で何かことが起こる確率はかなり低い。
 メアリもそう考えてはいるが、念のため、動きに注視した。

 蒸らされた茶葉がまずは毒見用のティーカップに注がれていく。
 爽やかな朝の目覚めを連想させるような香りが広がり、メアリは「いい匂い」と笑顔を零した。