***

 ──ギリ、とヴェロニカは手にした扇子を力一杯握る。
 毎年恒例となっている近衛騎士入団試験の御全試合。
 ユリウスもいるだろうと張り切ってめかし込み出席したのだが、挨拶もできぬままであり、せめて少しだけでも話をとユリウスを探し歩いていた。

 きっとメアリと共にいるだろうと予想し、女王の控室を訪ねてみれば、中から親しそうに話す声が聞こえ、扉の隙間から覗いてみればなんということか。
 メアリとユリウスが仲睦まじく口づけをかわしているではないか。
 さすがのヴェロニカも無粋に扉を開けることはできず、まして相手は女王陛下とありそっと離れる。

(やはり、噂は真実だったのね)

 相手が女王ではいくらなんでも分が悪い。
 しかし、ユリウスはヴラフォス帝国の皇子だ。
 自分の虜にできたらさぞかし満たされるであろうと、諦めきれずにヴェロニカは誰もいない静かな廊下を歩く。

「女王の座だけでなくユリウスさままで手に入れて、いいご身分だわ」

 吐き捨てるように独り言ちたヴェロニカの行く手に、いつからいたのか右目を眼帯で隠した青年が立っていた。

「あなたは父の客人の……」

 屋敷で一度だけ見かけたことがあり、しかしなぜここにいるのかと僅かに首を捻る。
 ランベルトを訪ねてきた際は、コロシアムで働いているようには見えなかった。

「覚えていただけて光栄です、レディ・ヴェロニカ」

「私になにか御用?」

「ええ。もし、貴女が彼を手に入れたいのなら、協力しましょうか?」

 それは、今のヴェロニカにとって至極魅力的な言葉。

「……話を聞きましょうか」

 ヴェロニカは畳んでいた扇子をバサッと広げると、優雅に仰いで不敵な笑みを隠した。