「ライル王子と話ってなにかな?」

「情報の共有じゃないか? ライル王子は事件を追ってなかなか掴まらないようだし」

「なるほど……」

「それよりメアリ」

 話していたユリウスの声が突如硬くなり、メアリは反射的に身構える。

「君はライル王子に隙を見せすぎだ」

「隙? そんなことは」

「ないとは言わせない。さっき、彼が別れ際に君にしたことは?」

 指摘され、脳内にはっきりと蘇るのはメアリも驚いたライルの行為。
 試合が終わり、控室に向かう為に立ち上がったメアリに、ライルは招待の礼を告げると共に、流れる動作でメアリの手の甲に口づけを落としたのだ。

 今は失われしディザルト公国では、敬愛の挨拶にあたるものだとメアリは学んで知識を得ていた。
 故に、それを真似したものとあまり重く考えていなかったのだが、ユリウスは違ったようだ。
 いや、わかっていても、相手がライルだから許せないのかもしれない。

 咎め、不機嫌そうに眉をしかめるユリウスに、メアリは「ごめんなさい。気をつけるわ」と気持ちを込めて伝えるも、その表情は変わらない。