月夜見の女王と白銀の騎士

 ユリウスの父、ジークムント皇帝陛下を陥れ、ヴラフォス帝国を操ろうとしていた宰相モデスト。

 メイナード王の死も、ユリウスの裏切りも、モデストの凶行によるものであり、予知の力を利用しようとメアリを牢に幽閉したが、目論みは失敗に終わった。

 ルシアンの立ち回りにより、アクアルーナの近衛騎士たちを密かに入国させ、モデストを捕らえるに至ったのだ。

 この事件を経て、ジークムントは諸々の処理を済ませると、責を負って第一皇子ルシアンに皇帝の座を任せる運びとなった。

 ルシアンの戴冠式には第二皇子のユリウスも参列し、滞在していたメアリたちも賓客として招かれ、見届けた後、アクアルーナへ帰国した。

 本来なら、ユリウスは兄と共にヴラフォス帝国を支えなければならぬ立場だ。

 しかし、今はまだメアリの騎士であることを望んだユリウスに、ルシアンは笑顔で告げた。

『メアリ王女に忠誠を尽くすことは、ヴラフォスの誠意を伝えることに等しい。だからユリウス。お前はメアリ王女の剣と盾になり、揺らぐことのない同盟の証となってくれ』


 ヴラフォスの皇子として、メアリの側で生きる意味を与えてくれた兄に深い感謝を持ちながら、ユリウスは王冠を手にした大司教の前に膝まづくメアリを見守る。

 貴重な宝石がいくつも施された黄金に輝く王冠を頭上に戴き、アクアルーナの象徴ともいえる青色のケープを肩にかけたメアリがゆっくりと立ち上がる。

 玉座を背に振り返ったメアリの姿は凛として美しく、確実に国を統べる者としての強さを身につけつつあると知らしめていた。

「ここに、メアリ・ローゼンライト・アクアルーナを、アクアルーナ王国の女王と宣言する」

 声高らかに大司教が告げると、騎士団長オースティンを筆頭に近衛騎士たちが剣を掲げる。

「女王陛下、万歳!」

 謁見の間に、即位を祝う声が幾重にも響く。

 王国歴七百四十二年、二の月、アクアルーナの新しい御代が始まった。