月夜見の女王と白銀の騎士

 フォレスタットにおいてライルは王子でありながら、王国騎士とは別の自警団を持っており団長を務めている。
 国の治安維持を助けるため、ちょくちょく女性をナンパしつつ活動に勤しんでいるのだが、ある日、ギルドで働き情報を提供してくれていた親友が失踪した。

「親友の名はジョン。ジョンには可愛らしい恋人がいるんだが、その子も失踪していることが判明した」

 交際は順調で結婚も決まっていたふたり。
 駆け落ちの線は考えられず、盗賊や山賊の仕業ではと思われていた。
 その矢先、誘拐事件を追っていた自警団員が、隠れ家と思しき家屋を見つけたのだが、裏手の森でジョンの亡骸を見つけた。

 物言わぬジョンの傍らに膝をつき、悲しみに暮れるライルに団員は知らせる。
 家の中に人の気配がする、と。

 ジョンを殺した者かもしれない。
 そうであるならば捕えようとライルが立ち上がった、その直後──。

 屋内から雄たけびが上がり、何事かとドアを蹴り開けたライルの視界に飛び込んできたのは、火だるまになりのたうち回る、人。

『み、もと、にいっ…あああああっ!』

 部屋中に満ちた油の匂いに視線を走らせると、そこかしこが濡れて火が回り始めていた。
 火を消す手段はなく、巻き込まれぬうちに家屋から逃れ、ジョンの亡骸を抱えその場から離れたライル。