月夜見の女王と白銀の騎士

 やがて、太陽が山の稜線へとその身を隠し始めた頃、訓練を再開している騎士たちに紛れるようにしてライルがやってきた。

「いや~、まさか剣術にまで精を出すとは、メアリ女王陛下は最高だな。ますます俺を婿候補に入れてほしいね」

 軽く求婚しつつ「なあ、フィーユ」と肩に乗る相棒に同意を求めるライルに、ユリウスがうっとおし気に目を細めた。
 剣を手にするウィルもライルを見て「は?」と不機嫌に零す。
 そんな後輩を苦笑しながら宥めるルーカスと、尊敬する隊長にライバル出現でワクワクしているセオ。

 ソードラックに剣をしまい、侍女から受け取った清潔な布で汗を拭ったメアリは、階段を上がって歩み寄るライルを迎える。
 フィーユがメアリの肩に飛び移り、メアリはくすぐったそうにして眦を下げた。

「このようなところまで、どうしたんですか?」

「そりゃあもちろん、君に会いたくてきたのさ」

 ウィンクを飛ばすと、愛想笑いでかわすメアリの隣にユリウスが立つ。

「ライル王子」

「おおっと、そう睨むなって。半分は冗談だ。実は、例の男について報告があってね」

 半分は本気ということで警戒を緩めないユリウスが、静かな嫉妬心を燃やし「ああ、あなたが逃がしたあの男か」と嫌味を言いつつ爽やかな笑みを浮かべた。
 しかし、ライルは「これは手厳しいな」と軽く笑っていなす。