女王が戦の前線に立つ必要はない。
 己が命を守れるだけの技量があればいい。
 しかし、メアリは頭を振る。

「いいえ、昨日、私がもう少し役に立てればユリウスはもっと動けたでしょう?」

「だが、君は女王だ。騎士じゃない」

「では、父様は? 武芸に長けていて、若い頃は近衛騎士たちと共にヴラフォス軍と戦った。ユリウスも皇子様だけど戦ってるでしょう? ライルもだわ」

「いや、俺は男だし、先王もライル王子も」

「男の人よね。でも性別は関係ないわ。女性の騎士だっている。近衛騎士団にはいないけど、王立騎士団にはいるのを知ってるし」

 いざという時にしっかりと応戦できる女王であれば、近衛騎士たちの負担も軽くできるはず。

 何より、襲われる可能性を知りながら、あの時努力をしていればという後悔をメアリはしたくないのだ。

「父様に母様を始め、たくさんの人に守ってきてもらった命。私の力不足で散らすような真似もしたくないの」

 真剣な眼差しでユリウスに訴える。
 ユリウスは暫しメアリと見つめ合い、息を吐いた。

「稽古をつける場合、君は忙しい公務の合間の時間を使うことになると思う。それでもいいんだな?」

 先日、メアリが疲れていると話していたのでユリウスは心配そうな表情を見せる。
 しかし、「もちろん」と淀みなく答えたメアリに、ついに根負けした。

「わかった。それなら俺が稽古に付き合うよ。君の望む未来のために協力しよう」

「ありがとうユリウス!」

 嬉しそうに破顔したメアリにつられ、ユリウスも笑みを浮かべる。

「礼ならこっちで」

 ユリウスはそう言って、優しくメアリの唇を奪った。