あれから一夜明けたが、謎の男の件はどうなったのか。
 気にしつつも、今は目の前にいるユリウスに気遣いの眼差しを向ける。

「ユリウスこそちゃんと眠れた? あの後、忙しかったでしょう?」

「そうだな。少しバタバタはしていたけど。ああ、そうだ。ライル王子は無事、ルーカス殿たちと戻ってきたよ。ただ、あの男には逃げられたようだ」

 屋根の上を軽々と走っていたほどの運動能力だ。
 すばしっこいうえ、街の入り組んだ構造をうまく使われて巻かれたのだと、近衛騎士団の詰め所である騎士の間にて語ったらしい。
 現在、王立騎士団の者たちが見回りを強化し、捜索していると聞かされたメアリは「また、襲いに来る可能性はあるかな」と零した。

「ないとは言い切れない。だから暫くは俺が常に君の護衛に」

「私、稽古するわ!」

「……ん?」

 話し終わるのを待たず、力強い瞳でユリウスを見上げるメアリ。
 会話が別の方向に微妙にズレ、少々戸惑い気味のユリウスにメアリは続ける。

「自分の身を守れるだけでなく、ユリウスたちと共に戦えるようになりたいの」

 なるほどと、ユリウスはメアリの想いを汲んで微笑んだ。

「君は自分を守れるだけで十分だ」

 現に、ヴラフォス兵との戦いにおいては怪我はしたものの、ユリウスが助けに入るまでは相手の攻撃を剣で受け耐えていた。