ライルの助太刀により危機を脱し、近衛騎士たちにあとを託した後。
 メアリが急ぎ城門まで辿り着くと、落ち着かない様子で待つイアンに出迎えられた。

『ご無事でしたか! 何があったんです!』

『心配をかけてごめんなさい。実は……』

 メアリは城に向かって歩きながら経緯を報告した。

 視察に少し時間がかかってしまい、雨宿りをしていたところをならず者たちに襲われたことから始まり、突如現れた正体不明の者が、メアリを月夜見の巫女と呼んだことまでを。

 イアンとユリウスは、メアリと共に女王の塔、控えの間から寝室とは反対側にある執務室へ入るとすぐさま話し合いに突入した。

『つまりは、その謎の人物が鍵だが、現状は何もわかっていないということですね』

 イアンがまとめ、ユリウスが『はい』と返した。
 今はライルたちが戻るのを待ち、メアリの警護を強化するべきだと進言したユリウスに、イアンは深く頷いた。

『そうしよう。オースティンにこの件を報告し、連携を取って動いてもらえるか』

『わかりました。伝えておきます』

『よろしく頼む。それと、陛下にひとつご報告が』

 メアリが『なんですか?』と促すと、イアンは中指でモノクルの位置を直した。

『ランベルト大侯爵の屋敷に、客が訪ねてきたようです』

『お客さま、ですか……?』

『はい。大侯爵の屋敷を見張る王立騎士の話によると、昨日、祈りを捧げたいと神官がやってきたとか』

 話を聞いたメアリは、どこかの教団に属する者が勧誘にやってきたのかと思い、しかしなぜそのような報告をと首を傾げた。

 ユリウスが『ランベルト大侯爵は、信心深い方なのですか?』と問うと、イアンは『あの方は自分の力しか信じない』と言い切った。
 街の教会の修繕に関して話し合いがあった時も、神に縋っても無駄であり、故に修繕も必要ないと笑ったとか。

 そんなランベルトが神官をすんなりと招き入れたという。
 元から面識のある者だったかもしれないが、イアンは違和感を覚えているようで、少し探りを入れると告げ、解散となった。