ルーカスは騎士を数人ライルの援護にまわるように指示を出す。

「女王であると知ってか?」

 いつもは飄々としてるルーカスの目つきが厳しいものに変わり、メアリは首を横に振った。

「その辺りは不明で。でも、私を妙な名で呼んでたのが気になるの」

 メアリの言葉にウィルが「妙な名?」と首を傾げると、ユリウスがすっかりと雨雲が流れ去った夜空に浮かぶ満月を見上げて告げる。

「月夜見の巫女」

 柔らかな声が発すると、メアリはその名に込められた意味に気付き、目をいっぱいに見開いた。

「彼は、私の力を……知ってるの?」

 ティオ族の巫女。

 その血筋のみが受け継ぐ予知の力をメアリが持っていることを知る者は多くない。

 モデストに命じられメアリを攫ったユリウスはもちろんだが、父の親友でありメアリを暗殺から守る為に画策したイアン、オースティン、ジョシュア。

 ヴラフォス帝国に捕らえられたメアリを救出する際、イアンとオースティンから説明を受けた近衛騎士たち。

 ヴラフォス帝国では、監獄中のモデストと先帝であるジークムントを始め、現皇帝ルシアンに、彼の信頼する従者でありユリウスと共にスパイとしてアクアルーナに潜り込んでいたヨハン。

 また、ヴラフォス帝国領内イスベルでの戦いにおいて、ヴラフォス兵の中にメアリの目が紅く変貌したのを見た者もいるだろう。

 騒ぎや噂にはなっていないようだが、可能性があるとすればその辺りからかもしれない。