邪魔な男をひとり殺すだけ。

 作戦などないのだろう。

「おらぁぁぁぁっ!」

 足並みの揃わぬならず者のひとり目が、ユリウスへと食らいつくように剣を振り下ろした。

 ユリウスは目を細めると、素早く引き抜いた長剣『スペランツァ』で弾く。

 それは兄のルシアンからの贈り物で、ヴラフォス帝国の宝剣のひとつだ。

 相手の動きは雑で、戦い慣れているユリウスにとって動きを読み取るのは至極簡単。

 飛び掛かって来るならず者たちを的確に迎え撃ち、肉を斬り裂いた。

「さて、まだやるか?」

 ユリウスがひとり、またひとりと地面に転がしていく最中、メアリはふと気付く。

 塗れた石畳が、眩い光を映しているのだ。

 導かれるように見上げた濃紺の空には、流れる雲の切れ間から丸い月がメアリを見下ろしていた。

 次の瞬間、メアリの双眸がじわりと熱を持って、ダークブラウンから紅く色を変える。

 自身が持つ能力に意識を引っぱられたメアリは、夢に似た予知の世界でそれを視た。

 今まさに自分たちを襲うならず者が、ふたり同時にユリウスに斬りかかり、さらに三人目が横から突っ込んでくる光景。

 避けられなかったユリウスはわき腹を刺され、服が血を吸って赤黒く染まっていく。

 それでも膝をつくことはなく剣を振るう姿は痛々しく、メアリがユリウスの名を叫ぼうとしたところで意識が戻った。

 予知では一分ほどの出来事だが、実際の時間としてはほんの二、三秒。

 ユリウスが剣をひと振りし、血を払った直後、今視たばかりの光景が始まった。