「ごめんなさいユリウス……」

「なぜ謝るんだい?」

 メアリの謝罪に不思議そうに首を傾げたユリウス。

 しかし、その優しい瞳が突如細められ、腰の剣に手を添えながらメアリの前に立った。

 藍色の髪に、弱まり始めた雨粒が当たる。

 目の前にいるユリウスの背中に緊張が走っているのを感じ、メアリも外套の下に隠している剣の柄を握った。

 じゃり、と地面を蹴って歩く足音が聞こえる。

 ひとつふたつではない、多くの足音が近づいて、それはメアリとユリウスの前で止まる。

 薄汚れた服と皮の鎧を身に纏った集団。

 お世辞にも身なりがいいとは言えないその集団は、スラム街に住む『ならず者』だ。

「あんたの後ろにいる女に用がある」

 全員で二十名ほどだろうか。

 その中のひとり、風格からして恐らくまとめ役であろう者が、濁った野太い声で言った。

「なんの用事だ」

「てめぇには関係ねぇ」

 ならず者のリーダーらしき男は、ユリウスが近衛騎士であることに気付いてはいない。

 お忍びのため、メアリに合わせてユリウスも騎士服ではないからだ。

 風が吹き、分厚い雨雲がゆっくりと流れ、雨が止む。

「申し訳ないけど、彼女に用があるのなら俺を通してもらわなければ困る」

「そうかい。じゃあ面倒なんで、てめぇには消えてもらおうか」

 その言葉を合図に、ならず者たちがばらばらと剣や斧といった武器を手にしていく。

「メアリ、俺の後ろから出ないように」

 ユリウスの強さを知っているメアリは信頼を胸に、「はい」としっかり頷いた。

 もちろん、もしもの時は自分も応戦するつもりでおり、柄を握る手に力を込めると、ならず者たちが飢えた魔獣のように走り出す。