月夜見の女王と白銀の騎士

「相棒って、この子?」

「そう、そいつ。船から降りてすぐはぐれちまってね。探してたんだ。おいで、フィーユ」

 名を呼ばれると、メアリの腕から飛び降りたフィーユは、しゃがんだ青年の肩に飛び乗った。

「フィーユというのね。良かったね、早めにご主人様と会えて」

 話しかけると、フィーユは小さな子でキュイッと鳴いた。

「この子は、なんていう動物なの?」

「ああ、ウルズという種の動物だよ。ところで、フィーユを助けてくれたお礼をしたいんだが、良かったらこれから茶でもどうだい?」

「あ、ごめんなさい。私すぐに戻らないといけなくて」

 フィーユが心配で林の中まで入ってしまい、今頃ユリウスが心配しているだろう。

 イアンには間違いなく説教されそうだ。

 急ぎ港へ戻らねばと踏み出したのだが。

「それなら明日は? せっかく君みたいな可愛い子と出会えたんだ。ぜひともお近づきになりたいんだが、予定はどうだい?」

 フィーユを肩に乗せたまま、青年はメアリの隣を歩いて口説き始めた。

 会ったばかりで口説かれる等とは思いもよらず、メアリが断る口実を探して眉を下げるのと「空いていない」と強張った男の声が聞こえたのはほぼ同時だ。

 メアリと青年が足を止めると、草を踏み分けてユリウスが姿を見せた。

「ユリウス! あの、勝手に動いてごめんなさい」

「その話は後で」

 話しながらメアリを自分の後ろへと隠すユリウスの身なりを見て、青年は僅かに目を豆くする。

「君は、アクアルーナの近衛騎士と知り合いなのかい」

 問われて、メアリは驚いた。

 纏う鎧を見て、アクアルーナの騎士ではとわかる他国の者は多いが、近衛騎士だとわかる者は少ないのだ。