月夜見の女王と白銀の騎士

 一方その頃、メアリは店の裏手に広がる林の中を歩いていた。

「この辺りに……あ、いた」

 木の陰から覗き見る姿は愛らしく、メアリは頬を緩めるとしゃがみ込んだ。

「おいで。何もしないよ」

 優しく声をかけると、港の喧騒から離れたおかげか、ようやく動物は逃げるのをやめて一歩メアリへと近づいた。

「あなたどこかで飼われている子なのかな? おうちわかる?」

 話しかけると更に近寄る姿に、やはり野生ではなさそうだとメアリは考える。

 しかし、アクアルーナでは初めて見る動物だ。

 もしかしたら飼い主は他国から入港した旅客船の乗客で、はぐれてしまったのかもしれない。

(保護したら、港で飼い主さんを探してみよう)

 白と茶の混ざったふわふわの毛に覆われた体。

 ゆっくりとメアリの元までやってくると、少しぎこちなくはあるがすり寄って甘えた。

「可愛い……」

 メアリが手で撫でても逃げる気配はなかったので、そのまま抱き上げて立ち上がる。

「さあ、一緒にご主人様を探しに行きましょ」

 告げた直後、動物は垂れた耳をピンと立てた。

 その直後、木々の間から青年が現れて、メアリは動物を抱いたまま一歩後ずさる。

「おおっと、警戒しないでくれ。俺はそいつの相棒だよ」

 何もしないとアピールするように両手を挙げた青年。

 少々癖のある焦げ茶色の髪と、目鼻立ちがキリッと整った精悍な顔立ち。

 歳は、自分と同じか少し上くらいだろうか。

 大きな襟の立った外套は、カナリアの羽根の如く落ち着いた黄色に染め上げられ、腰に巻き付けられた革のベルトホルダーには、柄に護拳が施されたサーベルを下げている。