メアリだけに聞こえるように告げられた声。

 悪戯っ子のような瞳で微笑むユリウスに、メアリが嬉しそうに頷いた時だ。

「あ、いたいた。隊長!」

「セオ、どうした?」

 ユリウスの第三部隊に所属する近衛騎士、セオが軽やかに走り寄ってきた。

 愛嬌のあるそばかす顔を一度メアリに向け、元気よく頭を下げる。

「メアリさ……じゃなかった。王女……でもなくて、陛下!」

 セオが「慣れないなぁ」と苦笑するのを、メアリは「私は、前のようにメアリさんのままでも構わないのだけど」と本音を吐露する。

 イアンに聞かれたら小言を食らうであろう言葉を受け、しかし「俺もっス」と笑ったセオの頭を、ユリウスはこつんと小突いた。

「調子に乗るなよ」

「チェ~。隊長はいいのに俺はダメとかズルくないっスか~?」

 セオに突っ込まれ、ユリウスはうっと喉の奥で小さく唸る。

「いっつも場を弁えろ~とか言いながら、たま~にこそこそ仲良く話してるの、俺たち知ってるんスよ」

 これにはメアリも頬を染め居たたまれずはにかんだ。

 ユリウスは誤魔化すかの如く、ひとつ咳払いをする。

「この話はここまでだ。それで、用件は」

「あ、逃げたっスね」

「セオ」

 いい加減にしろと言うような強い声で諫めると、セオは肩をすくめて仕事モードに戻る。

「団長からの言伝で……」

 騎士団の仕事について話を始めたふたりの横で、メアリは賑わう港の様子を見渡した。