決意は日ごと固くなり、しかし比例するように責任が重く圧し掛かっていった。

 アクアルーナの女王という立場に不安と緊張を膨らませ続け、このままでは戴冠式で何かやらかしてしまいそうだとメアリは息を吐く。

(先生のところへ行って、気持ちを落ち着けるような薬をもらおう)

 思い立ち、メアリは後方にて控えていた侍女と共に墓地を後にすると、城の西方に構える医務室へと向かった。

 ──思えば、この時に侍女たちを先に帰したのが間違いだったのだろう。

『ああっ、僕の可愛いメアリ。もしや晴れ姿を僕に見せようと来てくれたのかい⁉』

 王宮の専属医師であり育ての親であるジョシュア。

 期待に胸を膨らませる彼に、訪れた理由を話そうとしてメアリは口を噤んだ。

 これから戴冠式に臨むというのに、あまり侍女たちに弱っている自分を見せてはならない気がしたのだ。

 故に、先に戻っていてと告げてしまった。


 ジョシュアが淹れてくれたハーブティーは美味しかったし、昔から変わらずに愛しんでくれる彼によって幾分か緊張は和らいだけれど、自分の方向音痴には辟易する。

 帰り際、ひとりで戻れるかと心配して声をかけてくれたジョシュアに胸を張って『大丈夫よ』とのたまったのはどの口か。

 普段着慣れない丈の長いドレスを着て歩き回ったせいもあり、少々疲れてしまったメアリだったが、気合を入れ直しドレスのスカートをたくし上げた。

 西庭園に出られたのだ。

 少し遠回りにはなるが、このまま庭園を歩いて裏庭を目指し、そこからぐるりと自室のある王女の塔を目指そう。

 ヘタに城内を歩けばまた迷う可能性があるため、とにかく確実な道を選んだメアリが、いざと柱廊から一歩踏み出した時だ。

「麗しの迷子姫」

 背後から聞こえた甘やかな声に、懐かしい名で呼ばれる。