「ユリウス、あの船はフォレスタットの?」

 船の天辺にはためく緑青の旗にもしやと思い尋ねると。ユリウスは「ええ」と頷く。

「フォレスタットの第三王子が乗る船でしょう」

「イアンさ……イアンから、出迎えは必要ないと言われてるけど、本当にいいの?」

「先にご自分の足で城下の視察をしたいそうです」

 故に、城からの迎えもいらないとの申し出があったと聞き、メアリは「そうなのね」と納得した。

 他国の村や町を歩くと心が躍ることを、ユリウスに攫われヴラフォスへと向かう道中で知ったからだ。

 もちろん、イアンやオースティン、近衛騎士たちが血眼で捜索しているであろうこと、ヴラフォスに辿り着いた時の自分の処遇など、様々な不安が頭から離れず尽きなかった。

 ユリウスがヴラフォスの皇子であったショックと動揺も続いていた。

 しかし、だからこそ、他国の活気や雰囲気、市場に並ぶ珍しいものたちが、メアリの心労を和らげてくれたのだ。

 そして、その数日間がメアリとユリウスの心を近づけたのも事実。

「フォレスタットの城下町はどんな感じなのかしら」

 晩餐会で王子に聞けばいい話題にもなりそうだと考えていると、ユリウスがそっとメアリの隣に立った。

「君がフォレスタットの城下町を歩く時は、必ず俺に供を。また祭りがあればこっそり参加しようか」

 女王、皇子、騎士。

 そういった立場を祭りの喧騒に全て隠し、ただの恋人同士として。