像の制作にあたり、アクアルーナ城に彫刻家が謁見の間に通されたのは数日前だ。

 イメージを膨らませたいと、メアリを始め、イアンら家臣数名から、メアリがどのような人物であるかという話を聞いた彫刻家は、『癒し』と『先王の意志を受け継ぐ者』といった印象を強く受けたらしい。

 彫刻家は自信を持って答える。

「いえ、陛下。女神はまさしくあなた様です。白銀の騎士様からも、先王陛下の剣を手にヴラフォスの兵と戦ったと伺いました。だからこそ、女神は王の剣を抱き締めているのです」

 彫刻家からユリウスのふたつ名を聞き、メアリは護衛として一歩後ろに立つユリウスを振り返った。

「陛下は美しいですよ。むしろ、この女神よりもずっと」

 きっと女王へのお世辞だろう。

 わかってはいても、恋人であるユリウスの甘い顔立ちに乗せられた優しい笑みのせいで、メアリは公衆の面前で口説かれているのではと錯覚してしまう。

 羞恥に頬を染めたメアリに、追い打ちをかけるように彫刻家が続く。

「ええ! 像を制作する際は、もっと陛下の内面の美しさを表現できるよう努めます」

「あ、そっちの……」

 外見を似せてきたのかと勘違いしていたことに気付き、思わず声を零したメアリに、イアンは口を引き結び笑うのを堪えた。

 その気配を察知したメアリは更なる羞恥に苦しみながらも、内面を褒められたことに深く感謝する。

「そのように褒めていただけて嬉しいです。像の完成を楽しみにしています」

「陛下のお気に召していただけますよう、精一杯の力で制作させていただきます」

 深々と頭を下げた彫刻家に、イアンが完成の目処などを確認する中、メアリは港に停泊する交易船の中に、アンテリュール号に勝るとも劣らない大型船を見つけた。