「ただ、騎士である俺の考えでは、誰かを救うために、誰かが犠牲になることは否めない。それによって悲しむ者もいると知っているし。それを不幸ととるかは、その心持ち次第になるだろうな」

 実際、メアリが捕らえられた時、多くの教団兵が命を失った。
 家族や恋人を持つものがいたならば、残された者は涙を流すことだろう。

 父王を亡くしたメアリ自身がそうであったように。

「すべての涙を止めることはできないけど、涙の数はきっと減らせる。そのために、私はもっと頑張らないといけないのね」

 誰も傷つかずにいられる世など、夢物語に等しいことは知っている。
 だが、犠牲を最小限にすることはきっとできる。
 その為にも、ティオ族……デーア族の血を求め人を攫うネアデーア教団を止めなければ。

「俺も君と共に進む。君が運命に抗う時は共に抗う」

「ユリウス……」

 メアリは、ユリウスの真っ直ぐな瞳に捕らえられ、胸の内を震わせた。

「俺は君だけの騎士だ。君の運命がどこを向き、君がどの道を進もうとも、たとえ行き着く先が地獄だとしても、俺は君を愛し、守り抜くと誓う」

 運命がふたりを引き裂こうとしても、必ず。

 ユリウスの唇が、そっとメアリの額に押し付けられる。
 深い愛のこもった誓いに、メアリは「ありがとう」とユリウスの唇に自ら口づけた。

「私の運命は、あなたと共に」

 誓いを返し、ふたり寄り添い合う。

 そうして、輝かしい未来を祈るように、窓の外に浮かぶ白銀の月を眺めた。






 FIN