蘇るダリオの言葉。

『この世界は、幸と不幸でできている。誰かの幸せは誰かの不幸であり、僕や彼に与えられたのは不幸だ』

 メアリが選んだ選択によって得た幸福の裏で、誰かが不幸を得てしまうのか。

 不安に心を揺らし、ユリウスを見る。

「私が幸福であることは、誰かの不幸に繋がる?」

「なぜ、そんな話を?」

「ダリオが言っていたの。誰かの幸せは、誰かの不幸せだって」

 メアリは今まで誰かが幸せであることで自分が不幸であると感じたことはなかった。
 それは、ダリオが言っていた通り、人より恵まれた環境であったからかもしれない。
 もしも自分の置かれた境遇が、モデストやダリオたちのように過酷であったなら、自分も誰かを恨んで不幸を嘆きながら生きていたのだろうか。

 思い悩み、弱気な部分を吐き出したメアリを、ユリウスはシーツの中で優しく抱き締める。

「少なくとも、君の幸せは俺の幸せだ。例えば、本当に腹が立つ例えだけど、君がライルと結婚したとしても、君が幸せなら……腹は立つけど、祝福する。それで俺が不幸だと感じることはないよ」

 諭され、メアリは自分も同じだと感じる。
 ユリウスが別の女性と結婚することになれば、寂しくて苦しくもなるだろうけれど、不幸だとは思わないと。