王女だと知らされてから日は浅い。

 最初から何もかも完璧にこなせるわけがなく、完璧にこなす王が歴代の中にいたわけでもなく。

 だからこそ、国を支える王を臣下たちが支える。

 牢に閉じ込められてもなお太々しい態度をとるランベルトを見る限り、共に歩みたいというメアリの願いが叶う可能性は低いだろう。

 ランベルトの行動次第では処刑に踏み切ると、イアンは此度の釈放を利用するつもりでいるようだが、果たしてどう転ぶか。

 鉄格子を固く閉じていた鍵が開けられる。

「私をここに閉じ込めたことを、貴殿らにいつか後悔させてやるぞ」

 両手に縄をかけられながらも捨て台詞を吐き牢から出たランベルト。

 オースティンは誰にも気付かれぬよう溜め息を吐いて、メアリに被害が及ばぬように目を光らせることを心に固く誓った。


***


 城下町の中央広場には、朝市の賑わいとは別の騒がしさがあった。

 設置された木製の掲示版に、ランベルト釈放の知らせが貼られたからだ。

 民衆から零れる不安の声を耳に、薄汚れた白いフードを目深に被った青年の口元に笑みが乗る。

「ランベルト大侯爵、釈放……か。これは使えるかも」

 新しい玩具を見つけた子供のように、楽しそうな声で誰ともなしに呟くと、青年は足首まで覆う外套を翻し広場を去った。