剣の調子であれば悪くはない。
 だが、気分であれば絶不調だ。
 早くメアリを腕の中に取り戻し、攫った奴を斬り刻んでやりたいという衝動が限界突破しそうなのだ。

 しかし、メアリを救い出すまでは暴走するわけにはいかない。
 冷静さを欠いては危険だと自分に強く言い聞かせ、剣を振るうユリウス。

 敵兵を切り伏せたライルが、「凄い殺気だな」と苦笑し、またサーベルを構えた。

 教会を前にした攻防戦は、時間が経つにつれ近衛騎士たちが押し始める。

 固く閉ざされた教会の入り口付近では、イザークが指揮する第四部隊が奮戦中だ。
 敵を片付けつつ辿り着いたユリウスとライルが助太刀に入るとイザークが叫ぶ。

「お前は教会の中へ先行しろっ! 陛下を助けて早いところその怖い顔をどうにかするんだな!」

 イザークが鼻で笑うと、ユリウスは扉を見た。

「イアン殿の鴉たちは?」

「そろそろだろ!」

 剣を薙ぎ払うイザークが答えたと同時。
 扉が開いて、足取りの覚束ない敵兵が転がり出てきた。

「ぐっ……あ……から、だが」

「うぅっ……痺れて、動けな、い……」

 よろめき膝をつく原因は、敵兵と共に流れ出てきた白煙だ。

 教会への突入にあたり、扉が開かずに手間取るであろうことが想定済みだったイアンが、敵兵に扮した鴉を潜入させていたのだ。
 頃合いを見て身体が痺れる煙玉を使った鴉の活躍により、煙から逃れようと敵兵が扉を開けてくれた。