「朝方、アクアルーナを出るから、それまで巫女様はここでおとなしくしててね」

 そう言って背を向け、ランベルトの流した血だまりを踏んだ直後──。
 扉の向こうからバタバタと慌ただしい足音が聞こえ、ダリオの目つきが鋭くなる。

「失礼しますっ、ダリオ様」

 焦った様子の兵士がダリオに耳打ちする。

「予想以上に動きが早いなぁ」

 だるそうに溜め息を吐いたダリオは、兵士に伝える。

「強行突破だ。巫女様を優先して急いで出るから、馬を裏口に用意しておいて。坑道で待機している兵は全員出撃。僕と巫女様が教会から出たら合図を送るから、辺りに火を放つように」

「はっ! 承知しました!」

「さて……」

 兵士が聖堂から出て行くと、ダリオがメアリの元へと踵を返す。

「君の臣下たちは優秀だね。もうお迎えに来たみたいだ。おかげで出発が早まった」

 イアンやユリウス、近衛騎士たちが近くまで来ていることが知らされ、メアリの瞳が希望の色に染まった。

「嬉しそうだね。でも、巫女様は僕と一緒にアクアルーナを出るんだ」

 連れて行こうと、さっそくダリオがメアリを抱えようとしゃがみ込む。
 だが、簡単に連れて行かれるわけにはいかない。

(皆が……ユリウスが来てくれる。チャンスを作って逃げるか、せめて抵抗して時間を稼がないと!)

 次こそダリオの思い通りになるまいと考えるも、手足が使えない。
 ならばと、メアリは瞼をギュッと瞑り……。

「たぁっ!」

ダリオの顔面に向かって頭突きを食らわせた。