「私を殺さないの?」

「それが目的ならさっきランベルト様に任せたよ。でもそうじゃない」

 話しながらメアリの前にしゃがんだダリオは、薄く笑んでメアリの首に指を這わせる。
 撫でる指が辿り着いた先は、とくとくと脈打つ頸動脈。

「欲しいのは君の血だ。君の白い肌の内に流れるデーア族の血。それをあの方は望んでいる」

 血が欲しいけれど殺さない。
 今はその時ではないということだろうかと考え、メアリはさらに気になっていたことを確認する。

「ティオ族は、デーア族なの?」

「そうだよ」

「あなたもデーア族?」

「残念ながら違う。そうだったらもっとあの方の役に立てたのにね」

 あーあと続け、ダリオは心底悲しそうに溜め息を吐く。

「その人のこと、とても尊敬してるのね」

「素晴らしい方だからね! 巫女様も逢えばわかるよ」

 にっこりと笑うとダリオは「さて」と首を傾けた。

「無駄話は終わりだ。だらだらと僕から話を聞いて僕を知って理解する努力をしても、残念ながら僕の心はヴラフォスの皇子のようには動かない。寝返ったりしないよ、巫女様」

 どうやらダリオは、メアリの能力だけでなく、ユリウスがメアリの騎士となった経緯も知っているようだ。
 各国がそうしているように、ダリオが属する組織も各地に密偵がいるのかもしれない。
 だが、ただ情報を得たかっただけのメアリにダリオを寝返らせる意図などない。

「そんなつもりはないわ」

「そう? てことは、無意識で入り込もうとするタイプかな」

 半笑いしながら立ち上がると、剣に着いた血をひと振りして払う。