坑道の見取り図を確認するユリウスがオースティンに尋ねる。

「坑道の出入口は教会側のみですか?」

「ああ、そうだ。昔は王都の西にあったようだが、落盤後、完全に塞がれている」

 つまり、敵の逃げ道は教会側のみ。
 把握したユリウスは、さらに質問を追加する。

「兵は、ランベルト大侯爵の私兵ですか?」

 王都に居をかまえているランベルトは、西方の湖を越えた先の街、ルラーゴを治める領主だ。
 普段は代官に管理を任せており、ランベルトの私兵団が治安維持の助けを行っている。
 その数が二百程度だったとユリウスは記憶していた。
 しかしながら、ランベルトが牢に入れられてからは私兵団も行動を制限されている。
 見張りとして派遣されている王立騎士団の目をかいくぐって私兵団がルラーゴを出ていたとしても、すでに報告があってもおかしくはないはずだ。

 ユリウスの質問を受け、イアンは頭を振った。

「陛下がならず者たちに襲われた後から監視を強めさせているが、ランベルト大侯爵の私兵は動いていない。それに、彼の私兵の顔なら鴉たちが覚えているが、確認できた者たちの顔は初めて見る顔ばかりだったそうだ」

 ランベルトの私兵団である可能性は低い。

 言い切ったイアンは、懐から小さな箱を取り出して長机の上に置いた。

「敵の正体は不明だが、確かなことがひとつ。陛下が教会に囚われている可能性は極めて高いということだ」

 そう言って箱を開けると、現れたのはメアリが大切に身につけているペンダントだ。
 仕掛けを解くと、アクアルーナを統べる後継者の証が入っているそれは、世界でただひとつしかない。