気を抜かず、背後に回ろうとする動きを封じるように剣を振って阻止する。

「おっと、鋭いね!」

 今のは危なかったなと笑う青年にはまだまだ余裕があり、メアリは焦る。
 青年の強さは近衛騎士たちにも匹敵するレベルだろう。
 自分ひとりだけでどうにかできる相手ではない。
 部屋から出て誰かに助けを求めるか、もしくは、ユリウスが戻るまで耐え続けるか。

「これは耐えられるかな?」

「くっ……」

 体重を乗せた重い一撃を剣越しに受け、メアリの背が棚にぶつかり花瓶が倒れ落ちる。
 応戦しながら必死に思考を巡らせていると、青年が「はぁ」と溜め息を吐いた。

「あまり遊んでる時間ないんだよね。そろそろいいかな?」

 返事を求めない確認をする青年は、くるりくるりと舞うようにメアリから距離を取ると、懐から取り出した小瓶を床に叩きつけた。
 バリンと割れた小瓶から零れた液体が放つのは胸が焼けるほどの甘い香り。
 騎士たちが香りで眠らされたことを思い出したメアリは急ぎ腕で口元を覆ったが、遅かった。

「あ……」

 力が抜けて、手から剣が滑り落ちる。
 急速に意識が朦朧とし膝をついたメアリの視界に、歩み寄る青年の足が見えた。

「おやすみ、巫女様」

 ユリウス──。

 意識を失う寸前、メアリは愛しい人の姿を思い浮かべ、不甲斐なさに涙の滲む瞳を閉じた。