メアリは余計な情報は与えぬよう、ただ黙って首を横に振って否定した。
 すると青年は「あ、そうか」と瞼を瞬かせる。

「ティオ族って名前に変えられたんだっけ」

 その一言に、メアリの思考が一瞬停止する。

「変えられ、た?」

 青年の言葉を自分の中に落とし込めず、それだけ口にして戸惑うメアリ。
 その様子を青年は楽し気に見て目を細めた。

「ふふ、何も知らない月夜見の巫女様」

 メアリは双眸を驚きに染めて見開く。
 雨上がりの夜空の下、屋根の上からメアリを月夜見の巫女と呼んだ青年。

「あなた……あの時の」

 ならず者たちを使い、メアリを襲わせ、毒で殺めた人物であると気付いた瞬間、青年が一気に間合いを詰めようと動いた。
 しかし、いち早く反応できたメアリが一歩下がって剣を振るう。
 キンと金属がぶつかり合う音がして、飛び退いた青年はダガーを手に嬉々と口角を持ち上げた。

「へぇ、戦えるんだ。女王様ってみんなそうなの?」

「知りませんっ!」

 素早い身のこなしで間合いを縮めてくる青年の繰り出す一撃をどうにか剣で受け止めて、払い退ける。

『相手が短剣である場合、こちらの武器が長いと有利だけど、最初の一撃が重要なんだ。もし初手で相手を倒せず懐に入り込まれたら、しっかり受け止めるか避けて、態勢を整える』

 ユリウスに教えられた動きを必死に思い出しながら、メアリは次の一撃が繰り出される前に剣を構え直した。