あなたはヴラフォスの皇子だけど、アクアルーナの騎士だ。
 そう言ってユリウスを信じ続けたメアリの真っ直ぐな心根に、ユリウスはどうしようもなく惹かれていったのだ。

「真っ直ぐすぎて、ハラハラさせられることもあったけどね」

「ご、ごめんなさい」

 いくつかある心当たりを胸に謝るメアリをユリウスが優しく笑う。

 やがて、女王の塔に辿り着き、メアリがユリウス共に自室へと足を踏み入れた時だ。
 俄かに騒がしい気配に気付き、ユリウスが窓から様子を伺う。
 続いてメアリも窓の外を見下すと、王城を守る数名の衛兵たちが城の入り口がある方角へと走っていくのが確認できた。

「何かあったのかな」

「見てくる。メアリは部屋から出ないように」

「わかったわ。気をつけて」

 ユリウスはメアリの額に軽く口づけ踵を返し、颯爽と部屋を出て行く。
 見送ったメアリは、女王の塔から見下ろす東庭園の奥に再び視線をやった。

(大した事でなければいいのだけれど……)

 稀に空を飛ぶ魔物の類が入り込むことがあると、幼い頃に父から聞いたのを思い出したメアリ。
 それならば、兵や騎士たちがうまく対応できるだろうと考えた直後、ヴェロニカの言葉が脳裏を掠めた。

『あの薬は、最近父に仕えるようになった、ダリオという青年から貰い受けました』

 ランベルトに仕える眼帯の青年。
 もし、その青年が、ランベルトと共に城に入り込んでいたら。
 もしくは、謁見の間でランベルトの後ろに控えていた者であったなら。