「……これは、ひとりごとよ」
「はい」
「ひとりごとだから、返事はしないでいいですわ」
ちらりと睨んだヴェロニカに、メアリは苦笑して無言を返す。
ヴェロニカの少しかさついた薄い唇が息を吸い込むと、ポツリ、紡がれる声。
「女王になんて……なりたくはないわ。ずっと、望んでいなかった。私はただ、ただひとりでもいいから、純粋に私を見てくれる人が欲しいだけ」
ヴェロニカは孤独の中ずっと、求めていた。
アクアルーナという王家のフィルターを取っ払い、ヴェロニカ個人を見てくれる相手を。
「政治の道具ではなく、娘として愛してくれる父が欲しかった。そして、家柄など関係なく、私を愛してくれる人とあたたかな家庭を築く。質素でもいい。ただ、そこに大切な人の笑顔があれば。私がずっと求めているのは、そんな穏やかで、ささやかなものなの」
大きな屋敷も、従順に仕える使用人もいらない。
豪奢なドレスも、高級なワインも必要ない。
けれど捨てることは許されず、生まれてからずっと、父親の都合で雁字搦めに縛られ続けているのだ。
おとぎ話の結末のようにはいかず、幸せになれないまま。
「笑っちゃうでしょう? この年にもなって、まだそんなものを欲しがって……って、やだわ、あなた泣いているの⁉」
鉄格子を挟んで涙を零すメアリは「ごめんなさい」と慌てて零れ落ちた雫を指で拭う。
「ヴェロニカ様が泣きそうな顔で笑うから……」
「そんな、つもりは……」
ないと、続けるはずだったヴェロニカは、ふいに唇を震わせ顔を背けた。



