月夜見の女王と白銀の騎士

 沈黙の間に暖炉の火が小さく爆ぜ、やがてメアリが先に口を開いた。

「実は私、ヴェロニカ様に嫉妬していたんです」

「……嫉妬?」

「ヴェロニカ様は美しくて、男性の心を掴むのが上手でしょう? 人の心を掴める手腕があるということは、それを政治にも活かせるはず。臣下たちの心を捕らえ、民の心を理解できるなら、ヴェロニカ様は私よりも女王にふさわしいのかもと……そんな風に考えていたんです。だから、勝手に嫉妬して、女王となったあなたがユリウスと並ぶ今があったのかと、これから来るのかもと想像すると、少し、怖かった」

 言葉を探しながら正直な想いを吐露したメアリに、ヴェロニカは馬鹿馬鹿しいと言うように首を振った。

「あなたが私を恐れる? そんな必要ないじゃない。あなたは何でも持っている。王位と、国と、忠実な臣下たちに、盾となり剣となる近衛騎士。あなたを慕う民たちと、若さも、純粋さも、そして何より、ユリウス様の愛。私には、ないものばかり」

 肩を落とし、ヴェロニカは寝台から足を下ろすと静かに自嘲する。

「もしもの話なんて不毛だわ。もしもと願って今が変わるのであればどんなに楽か」

「もしもが叶うなら、ヴェロニカ様は女王の座を望みますか?」

 本音が聞きたくて尋ねると、ヴェロニカは揺らした視線を膝に落とした。