僅かな明かりは、君の姿すら留めさせようとはしなかった。

生憎、街灯は間隔が異様に広く、その中間はよく見えなくなっていたのだ。

ただ、見失わないようにその存在を確かめるので精一杯だった。

隣の短い返事が心地よく帰路に響く。

君の力のこもった右手から左手に温かさが伝わって、そのまま心まで流れ込んでくるのを感じ、なんとも言えない感情になる。

それさえも愛おしくて、君の手を握り返した。

隣に意識を集中させると、君が青白い月の光に照らされて、恥ずかしそうにはにかむ。

それと同時にじわじわと、感情が溢れて、結界を超えた水面のように止まらなくなった。

歩くのを止めた僕を見て、不思議そうに半歩前で覗き込む君。

さらさらと、あの日から短くなった髪が揺れて、シャンプーの匂いがした。

君が近くにいるだけで、これでもかと言うほど幸せになる僕は、嬉しさの余り、全身が震えそうだ。

その振動をどうにか抑えて、右手で胸元まで手繰り寄せた。

耳まで赤くして、俯くなんて、聞いてない、可愛すぎる。

僕の手を添えた頬を、ゆっくり上を向かせると血色の良い唇が目に入った。

暗くて形をよく捉えられないからこそ、こんな大胆なことができた。

君に触れようと、首を傾ける。

君も、目を閉じたのを感じ取った。

触れるまであとほんの少し。



僕なら、君を泣かせたりしないから。