朝気がつくと、雪が降っていた。

吹き付けるのではなく、優雅に宙を舞う、君みたいな雪。

呼吸をすると、細い糸の張り詰めるような冷たさが喉を通り過ぎ、教室の中とは言えど、白い靄が吐き出た。

轟々と音をたてて燃える旧式ストーブに手をかざすと、柔らかな暖かさに包まれる。
それは、君も同じだった。

寒さで、頬を赤く染めているのが愛らしい。と思う。

登校するには、まだ早い教室で二人きり。

君の乗っている電車が、僕より二本早いのを知って同じ時間に来るようにした。

この笑顔が僕に許されるのなら、早起きなんて苦ではない。

君には、そんなこと一生言えやしないけど。

ふとした瞬間、中庭から、はしゃぐような笑い声が聞こえてきた。

君も、聞こえたようで、会話が途切れ、驚いたように顔をあげる。

中庭を見下ろそうと立ち上がる君に連られて、僕も窓際に寄ってみた。

校章の色からすると2年生だろうか。

男女が、雪の球を投げあっている。

きっと、恋人なのだと思う。

横目に君を見ると、男の方はバスケ部の先輩なのだと教えてくれた。

そんなとき、また僕は気づいてしまう。

君が、その緑のマフラーを目で追っていることに。

その目が恋心と、哀愁を孕んでいることに。

気がつかなくてよかったのに。

君には、好きな人がいて、僕はその相談役で。

そんなこと、はじめから分かっていたつもりだった。

なのに、それを、目の当たりにした今。



吹き付ける雪のように僕の心は掻き乱されて仕方ない。