白鳥先輩が立ち去り、ぐったりした黒羽くんと2人きりになる。


ここにいてもしょうがないから部屋に戻っていようかな。


隣だから何かあったらすぐ駆けつけられるし大丈夫だろう。



「私部屋戻ってるね。何かあったら壁叩いて。じゃあ...」


「待て...」



空気のような声が私の胸を締め付ける。


その声を聞いたら離れちゃダメだと脳が認知した。


1人にしたら可哀想だなんて感じてしまった。


なぜなら、この人の、黒羽玲央の弱さを知ってるから。


内に秘めている孤独が私の影と似ているから。


私はドアノブから手を離し、彼の隣に腰を下ろした。



「さ...あや...」


「声出さなくていいよ。白鳥先輩が来るまでここにいる。だから大丈夫」


「わりいな...。っ...、いっ、た...」



膝に手をやる黒羽くん。



「痛いの?」



こくこくと頷く。



「さすってあげようか?」


「いや...大丈夫だ」



こんな調子では明日学校に行けないだろう。


全然大丈夫じゃないくせに強がりすぎ。


私は元気を出してもらおうと今までの頑張りを誉めることにした。



「黒羽くんも練習してたんだよね。青波先輩と八代先輩から聞いたよ。こんなことになっちゃって赤井先輩の前で披露出来なかったけど努力したのは本当にすごいことだと思う。私が言い出したのに何にも出来なかった。それは後悔だけど...ありがとう、黒羽くん」


「そんなこと...ない。ありがと、さあや。お前の...お前のお陰で...成長出来た...。ほんとに感謝だ」



黒羽くんが自分を犠牲にして人を守り、人に素直に感謝している。


これはもう立派な成長だと思う。


わがままで頑固で変態で意味不明でまだまだ子供っぽいけど、真っ直ぐで一生懸命なのは黒羽くんの良いところ。


改めて気づかされたなぁ。



「なあ、さあや」


「何?」


「おれのこと...嫌い...か?」



ううん、


そんなことないよ。


そう素直に伝えれば喜んでくれるのかな。


だけど、私の耳はキャッチしてしまった。