「ねえ、紀之さん。何で私を選んだの?」

ずっと聞きたくて、中々聞けなかったこと。

愛し合った後の余韻の中で、沙織は聞いた。


優しく髪を撫でていた紀之の手が止まる。
 
「えー。そんなこと、言えないよ。」

相変らず 冗談ばかり言って、甘い言葉は言わない紀之。
 
「聞きたいの。たまにはいいでしょう。」

珍しく 甘い声で言う沙織に、紀之は ふっと息をついて 沙織の頭を胸に抱える。
 


「最初に会った時から、沙織、優しかったから。付き合ってからも、俺の気持ちわかって、付いて来てくれたでしょう。」

沙織の顔が見えないように、頭を抱き寄せて、そっと言う紀之。
 
本当に照れ屋で、愛の言葉が苦手で。

でも沙織の気持ちを、わかっていてくれた。



沙織が不安で、涙を流したことにも、きっと気付いているはず。
 
「ずっと、何も言ってくれないから。不安だったんだよ。」

少し顔を上げて 紀之を見上げて、沙織は言う。
 
「ごめん。気付いていたよ。でも中々、言えなかったんだ。本当にごめん。でも、待っていてくれて、ありがとう。」

沙織の頭を胸に押し付けて、紀之は言う。


甘い幸せが胸に溢れて 沙織はぎゅっと紀之の胸に 顔を付ける。

温かな手で、背中を撫でる紀之に、
 


「愛している?」そっと顔を上げて聞く。

照れた顔で頷く紀之。沙織は、
 
「言って。」と言う。
 

「もう。一回しか言わないよ。」

と言って 一度上を向いた後 沙織と目を合わせる。
 




「沙織、愛している。」

やっと言った。知り合って3年近く。

愛を交わして、2年が過ぎて、はじめて言ってくれた。
 

もういいよ 二度と言わなくても。わかるから。

愛されている自信があるから。

こんなに幸せだから。


沙織は、そっと紀之に唇を重ねた。