その後、軽い雑談と、これからのことを簡単に話し、紀之は一時間足らずで帰った。

後を追いたい気持ちを抑えて、沙織は父と向かい合う。
 

「お父さん、ありがとう。」

紀之に失礼な態度をしなかったから。沙織が言うと
 
「言っておくけど、廣澤さんに合わせた付き合いは、できないからな。うちは、普通の家なんだから。嫁入り道具も、あちらが望むようなものは、用意できないから。」

尊大な態度で、沙織に言う父。
 


「大丈夫です。私以外は何もいらないって言っていただいたので。」

沙織も負けずに答える。
 
「そんなわけにいくか。お前が肩身の狭い思いをするんだぞ。」

卑屈に言う父に、
 
「大丈夫です。そんなこと、気にするなら最初から結婚なんて、考えないから。それくらい、覚悟の上です。」

勝気に答える沙織に、父は呆れたような目を向けた。
 



「でも、今日はありがとう。紀之さんに、穏やかに接してくれて。」そう言って、沙織は立ち上がる。


百点ではないけれど、まあ合格点かな。

そう思いながら、ちらっと父を見ると、寂しそうに見えた気がした。