翌日の午後、訪れた紀之は、初々しい緊張感を滲ませて、父と母に挨拶をした。
 

「沙織さんとの結婚を、お許しいただけないでしょうか。お父様、お母様の心配や不安を、少しずつ取り除いていけるように、努力します。宜しく、お願い致します。」

軽い世間話しの後、座布団を下りて正座して、父に頭を下げる紀之。

沙織は感動して、紀之を見つめる。

紀之の言葉に、嘘はないから。
 



「頭を上げて下さい。色々、不安はありますが、沙織に脅迫されていましてね。結婚を認めないなら、家を出ると。」

父は、そこで言葉を切って沙織を見た。
 
「認めないわけじゃない。心配しているだけなんですが。どうも沙織は誤解しているようで。」

外面の良い父の 長い物に巻かれるような、感じの良い話し方に 沙織は腹を立てていた。

でも、紀之に失礼な態度をするよりはいい。

そう思って、少しほっとしながら。
 


「生活が全く違うので、廣澤さんに迷惑をかけることも、多いでしょう。長い目で、沙織を指導してやって下さい。」

父の言葉に、
 
「ありがとうございます。一生、沙織さんを大切にします。」

と言って、紀之は、もう一度、深く頭を下げた。


沙織の心を、熱い感動が溢れる。

沙織には、一度も言えなかった言葉。

父の前で言う紀之の、勇気と誠意が嬉しくて。