サバサバした性格と、ボーイッシュな外見で、沙織はクールに見られていた。

女性にしては長身で、スリムな体型。

髪型はショートボブ。

可愛い女の子は、似合わない、と自分で思っていた。
 


だから人前で泣いたことなんてない。しかも道端で。

紀之からのプロポーズは、それくらい衝撃的で、幸せなショックだった。


まさか紀之が、沙織との結婚を、考えていたなんて思わなかったから。
 


紀之の結婚相手は、沙織のような普通の女性ではないと思っていた。


お金持ちはお金持ちと結婚する。

財産のレベルが同じような。


例えば、取引企業の社長令嬢など。沙織は土俵にも乗れないと思っていたから。
 


何故、紀之は沙織に声を掛けたのだろう。

結婚までの思い出なのか。

結婚と恋愛は別物と割り切っていて、結婚後も沙織と付き合い続けるつもりなのか。

沙織は何度も考えていた。
 



それでも紀之と一緒にいたい。一日でも長く。

沙織は、ずっと思っていた。

何も言ってくれない紀之の、全身から滲む愛。


温かくて優しくて、とても心地よい。

一緒にいると、全てが満たされる。
 

沙織が感じている満ち足りた愛を、紀之も感じていると、信じられた。

紀之の穏やかに寛いだ笑顔から。

それを与えているのは、沙織だという自信があったから。
 



だから、結ばれなくても、少しでも長く一緒にいたかった。

結婚はできなくても。いつか別れがきて、沙織がひどく傷ついても。
 


でも紀之は、沙織との結婚を考えていた。

沙織には、何も言わずに。そっと準備をしてくれた。

幸せ過ぎて、すぐには信じられないほど。



迷子の子供が、親に会った時の様な、解き放される緊張が、涙になって流れた。
 


少し照れながら、困った顔で、沙織が泣き止むのを待つ紀之。


この人と一緒にいられるのなら、何もいらない。

どんなことでも頑張れる。涙を抑えながら、沙織は思っていた。