「私なんか、認めてもらえないでしょう、ご両親に。」

ずっと抱いていた不安だから。

そのために苦しんできた。

路地の道端で、立ったまま聞いてしまうほど。
 


「大丈夫。もう沙織のこと、話したから。」
 
「本当に、私でいいの?」
 


「沙織がいい。」沙織の目から、また涙が溢れて、紀之を困らせる。

そっと指で涙を拭うと、さっき買ってもらった指輪が見える。
 


「夢?」鼻をすすりながら言う沙織に
 

「現実だよ。」と紀之は笑う。



話し上手なのに、愛の言葉だけは苦手で。

何も言わない紀之の愛だけを信じて。

未来もいらないと、覚悟して付いてきた沙織だから。



紀之を一度も責めずに、何も催促しないで。

紀之は、沙織の寛大さに感動していたから。
 


「沙織、お腹空いたよ。夜はフレンチだから、うまい鮨でも食べようか。」

深刻な雰囲気が苦手な紀之は、なんとか明るくしようとする。

沙織も苦笑して頷く。
 


「泣くと、お腹空くって知っている?」と照れた顔で言ってみる。
 
「でしょう。俺も、そうかなって思ったんだよ。」

そんな紀之が大好きだから。もう、何も言わなくていい。

言われなくてもわかるから。



『でも、そんな人、私しかいないよ。』沙織がクスッと笑うと、
 


「さっきまで、泣いていたくせに。何がおかしいの。」と紀之は、安心した顔になる。