丁寧に見送られて、店の外にでると、すぐに沙織は聞く。
 

「ねえ、これ婚約指輪だよ。どうして。どうして私に。」

人が溢れる歩行者天国で。

クリスマスのディスプレーに囲まれて。

沙織は聞かずにはいられない。
 


「だから、ごめん。ちゃんと言わなくて。結婚して下さい。」

初めて言ってくれた、紀之の愛。

こんな所で。



でも嬉しくて。立ち止まったまま、沙織は顔を覆ってしまった。
 
 

「お正月は、忙しくなるから。俺、沙織のご両親に挨拶しないといけないし、うちの親にも、沙織を紹介するから。」
 

歩行者天国で泣いてしまった沙織を、紀之は細い路地に連れて行く。

道端でそっと沙織の肩に手を置いて、沙織の心が鎮まるまで、待っていてくれる。

何も言わずに。何も言えずに。
 


しばらくして、涙を抑えた沙織が、
 
「本気なの?」と聞くと、紀之は、そう答えた。

だからお正月の旅行を、予約しなかったのか。何も言わずに。