そっと肩を抱かれて歩く冬の街。

紀之は、カルティエの扉を押す。

近付いてくる店員に
 
「予約した廣澤です。」と言って、沙織を見る。



戸惑う沙織が案内されたのは、婚約指輪のコーナー。

驚いて、紀之を見上げる。

紀之は、照れたような、嬉しそうな笑顔で、沙織に頷く。
 



沙織は、心臓の音が聞こえるくらい、ドキドキして、紀之の腕を引く。
 
「どういうこと?」小さく聞くと、
 
「そういうこと。」と紀之は答える。

シャイな紀之の精一杯のサプライズ。



沙織の目に涙が滲む。
 

「ちょっと、沙織。ここで泣かないで。」

慌てる紀之の為に、必死で涙を堪えて。
 


丁寧な接客で選んだ、ダイヤのリング。

沙織の白い指に良く似合う、豪華で高価な。

まだ夢をみているようで。心臓の高鳴りは、治まらない。


婚約指輪を贈られるなんて。紀之と結婚できるはずがないのに。