「ねえ。土曜日は、二人でクリスマスしよう。去年のホテル、予約してもいい?」

急に明るい声で、話しを変える紀之。
 
「もちろん。もう一年か。早いね。」

沙織も嬉しそうに言う。

去年のクリスマス、結ばれたばかりの二人は、同じホテルのレストランで二人のクリスマスをした。

まだ少し、ぎこちなくて。探るように愛し合った。
 

「本当だね。年々早くなるよ。年とった証拠かな。」

明るく言う紀之に、沙織も笑ってしまう。
 


もうクリスマスか。

そう言えば、お正月の予定も、まだ決めてない。

紀之の負担になるから、沙織からは言い出せないけれど。


今回は、どこへも行かないのだろうか。

それともクリスマスが12時の鐘かもしれない。
 



電話を切った後、沙織の心は不安で騒ぐ。



いつもと同じように、明るく話していたけれど、紀之の声の違和感に気付いたから。


決意を秘めたような違和感。覚悟する時が来たのかもしれない。
 

夢のような一年だったから。


もし、紀之と別れたら、同じビルでは働けない。

顔を見ると辛いから。銀行を辞めて、海外に留学でもしようか。

それが無理でも、異動願いは出そう。

紀之に会わない所で、全部忘れよう。
 




そんなことを考えていると、涙が溢れてくる。

『馬鹿みたい。まだ別れを告げられたわけでもないのに。私は、もっと強いはずなのに。』

自分に言い聞かせながら、沙織は一人泣きじゃくっていた。